夏の祭りも終焉を迎えようとして、冒険者達の休息の時も同時に終わろうとしているその頃。


このヴァナディールで、ささやかな祝杯が挙げられた。




バストゥーク港区の一角で、新たな夫婦が誕生したのだ。



新郎を務めるのは、オレンジ色の跳ねた髪が印象的なエルヴァーンのKenzan。

新婦は、綺麗に白いウェディングドレスを身に纏ったヒュームのSharel。



Kenzan氏の知り合いである著者は、彼に呼ばれて相棒であるRamingと共に、結婚式に出席した。

式のプログラムは凝りすぎず、至って簡潔なものだった。

まるで主役である二人の関係を表しているようだ。



式の内装や、台詞の一つ一つは新郎であるKenzan氏が引き受けたそうだ。

忙しい中着々と準備をしていたというのだから、そのこだわり様に思わず脱帽してしまう。


ウィンダスにいた著者は、慌ててバストゥークへ向かうべく、Ramingを連れて旅支度を始めた。

冒険者も兼ねている著者は、戦闘のための旅には慣れているがこういった旅には不慣れで、

何を持っていけばよいのかあれこれ迷ってしまった。


Ramingに助言を受けつつ、荷物をまとめ飛空挺でジュノへと旅立った。

ジュノからはまた、バストゥーク行きの飛空挺を利用した。

著者達がバスポートを受付に見せていると、「もうすぐ到着するのでご乗艇される方は急いで下さい!」

という荒々しいガルカらしき声が聞こえた。


バストゥークへ着くと式場へと急いだ。


しかし、地図に式場と記された場所には新郎新婦はおろか参列者の姿も見当たらない。


どうやら時間を間違えたようだ。

そのうちリンクパールを介してKenzan氏から連絡が入るはずだ。

このリンクパールも、Kenzan氏が予め結婚式専用に用意したものなのだ。


仕方ないのでバストゥークを見て回ろうということになった。




バストゥークにはあまり来る機会がない著者らは、珍しい建物や技術に関心のため息をついていた。

しばらくすると、思惑通りKenzan氏から連絡が入った。

とりあえず式場まで来てくれと言うのだ。

その声の調子に著者は首を傾げながらも式場へと向かった。


式場にはKenzan氏の他に既に数人が来ていた。が、その表情はどれも曇っている。

どうも様子がおかしい。


事情をKenzan氏から聞いてみると、今日になってまだ新婦からなんの連絡も入っていないのだそうだ。



それから数十分待ってみたが、新婦の姿は現れることはおろか、連絡すら一向に入ってこないのだった。

「おかしいなぁ…式の時間は過ぎちゃってるのに…。」

焦りをあらわにして、Kenzan氏が呟いた。

「まさか今更になって婚約破棄ということもないだろう。」

誰もがそう呟きながらも、険悪な雰囲気はより濃くなってゆく。


式開始予定時間を30分ほど過ぎた頃、元気な声がリンクパールから響いてきた。

「おはよぉ〜!ごめん!!今から向かうから!!」

声の主は、今回の結婚式のもう一人の主役、Sharelである。


「全く…早く来いよ。皆待ってるんだから。」

そう愚痴をこぼしながらも、安心したのか新郎は目を細めた。




遅れてきた新婦は、司会に連れられて華やかに登場した。

気を取り直して、新郎新婦の入場。

参列者一同は、アーチ状に二人の通る道を作って拍手で迎えた。


席に着きKenzan氏が話をしだすとそれまで賑やかだった式場も、しんと静まり返り新郎の言葉に耳を傾けた。

熱が入りすぎてしまったのか、大分長い一言になってしまった。


そして、いよいよ二人の愛を誓う瞬間。

新郎が軽やかな手取りで新婦の指に結婚指輪をはめた。

そして、そのまま二人は身体を寄せ合い、キスをした。

頬を赤らめながらも、二人は幸せそうだった。


著者とRamingも、顔を見合わせて笑った。

式場は大いに盛り上がった。

クラッカーをうつもの、ゴブリンパラシュート花火に火をつけるもの。

酒に酔いしれるものや、あるいは食事ばかりに気をとられるものもいた。


誰かが新郎の足元に花火を置いて危うくヤケドを負いそうになった。

「度が過ぎるぞ!」と新郎は赤くなっている顔を更に真っ赤にして怒った。

そんな新郎の姿を、静かに微笑んで見ている新婦の姿が横にあった。


その後も披露宴が続いたようだが、あいにく著者とRamingはウィンダスで都合があるため退出させてもらった。



戦いの中でお互いを理解するようになり、惹かれ合うようになる。

今回の式で、冒険者というものは戦いだけではないのだなと、冒険者として改めて認識させられた。