「へぇ〜…。ここがジュノかぁ〜。」

「わぁ、色んな種族の人達がいっぱいいるよ!」

冒険者となって実力も身についてきたラミンとニルギリは、

更に腕を磨くため、中立都市ジュノへとやってきたところである。


「サンドリア、バストゥーク、そしてウィンダスの3国の中心となり統率する国だからね」

「まぁ、初めて見るものばかりだろうから街の中を色々探索してみるといいさ」

声の主はラミンとニルギリの他に二人。

いくら冒険に慣れたとはいえ、まだまだ熟練とはいえないラミギリコンビ。

ジュノの周辺には彼等の手に負えない凶暴なモンスターが多数生存するので、

こうして二人の護衛の下ジュノにたどり着けたというわけだ。

「ジュノのエリアは大きく分けて4つ。一つはこの港。一つ上の階へ行くと下層エリア。その上が上層エリア。

 最も上に位置するのがル・ルデの庭園と言い、奥にジュノの長がいる」

丁寧に詳しく説明を加えてくれているのがヒュームのフェニックス。

「上層エリアにはチョコボに乗るための技術を教えてくれる場がある。

 チョコボに乗れるようになれば移動可能な範囲がかなり広がるから後で行ってみるといい」

冒険に有益な情報を適切に伝えてくれるのがミスラ族の女性トビカゲ。

ミスラというと女性しかいないと思われているようだが、実際には男も存在する。

しかしミスラは比較的男児が出来にくいので冒険や狩りを勤めるのは専ら女性なのだ。

笑いながらそう教えてくれたのも彼女だ。


フェニックスとトビカゲの二人と出会ったのはタロンギ大渓谷。

ラミンとニルギリの二人が風の意思が具現化した集合体、通称「風のエレメント」に不意を衝かれ

危うく心中、というところで助けられたのが始まりである。

経験浅きタルタルの二人を放って置けないらしくその後も色々と手助けをしてもらい

ラミンとニルギリは彼等の集団、リンクシェル「PrairieWolf」への入団を決意したのである。

二人の事を愛称を込めてフェニさん、トビさんと呼んでいる。


「それじゃあこの後ミッションの予定があるから」

「え、もう行っちゃうんですか〜?」

「ああ。私も同行するつもりだ」

「…僕とラミンだけで大丈夫かなぁ」

「ははは、迷いながら街の構造を覚え給え」

「冒険者の道のりは、ジュノに到着してからが本番だよ。気を引き締めて頑張りな」

「は、はい!」

「忙しい中わざわざ有難うございましたぁ!」

軽く手を振って、人ごみの中へと二人は消えて行った。

リンクシェル仲間とはいえ、フェニックスとトビカゲはよく二人でいる。

国籍も種族も違うのに仲が良いという事はここジュノでは珍しくはないらしい。

ニルギリとラミンとしては、二人の関係がどこまで親しいものなのか気になる次第だ。


「さて、じゃあどこから見て回ろうか」

フェニックスとトビカゲの二人を見送って、ニルギリは振り返りラミンに声をかけた。

が、そこにあったのは寂しく広がる空間だけだった。

「…ラミン。早速か………」

ほんの一瞬のうちにいなくなった相棒を探すべく、慣れない人のごみに目を凝らした。

幸い、いないという発見が早かった事もありどこにいるのかすぐにわかった。


が。

「…あの隣にいるの、誰ですかー」


見つけたラミンのすぐ隣にはタルタルがいた。

しかも男性で、やけに馴れ馴れしくラミンに話しかけている。

よくわからない心のもやもやを感じつつ、ニルギリはその方向へと足を運んだ。


「こほん。ラミン、何してるの?」

「あ、ニル…」

「む、キミはこの子の事を知ってるのか?」

「えとね、わたしが道に迷って困ってたら…」

「心細そうにしてたから声をかけたわけさ」

「ニルとはぐれちゃって一緒に探してもらおうと思ってたの」

「あ、そ、そうだったんだ」

「…まぁ見つかったようでよかった。(ちっ連れは男かよ、つまんねぇの)」

「ナニカイイマシタカ」

「ん?いや何も」

物腰丁寧を装っているが、裏がある。裏があるぞこの人、しかも露骨だぞ。

ニルギリは心の中で思った。


「とにかく、相棒の面倒を見てくれてありがとう」

「いや、別に何もしてないし、まだ」

「気持ちだけでも十分だよ(まだって何だよ)」

彼の心の中で激動が繰り広げられている事など誰も知らない、彼以外は。

いや、彼自信わかっていないかもしれない。

「さて、それじゃ俺はこの辺で」

「また会えるといいですね〜」

「生きてりゃそのうち会えるだろうさ」

そそくさと、その男は去っていった。

しかし、すぐ近くにいた別の女性に声をかけ始めたのをニルギリは見逃さなかった。


「…。さて、どこに行こうか」

「あ!」

「うん?どうしたの?」

「さっきの人の名前聞くの忘れちゃった!」

「…まぁ、いいんじゃないかな」


とりあえず二人は、港から見て回ることにした。





ニルギリとラミンがジュノデビューを果たしてから数日。

上層エリアでチョコボ搭乗資格も二人共に無事得ることが出来、

街の様子も大体分かってきたので、何をしようかと二人で相談した結果

この近辺で魔物討伐をしているメンバーに加わってみようということになった。

掲示板にはクフィム島での魔物討伐メンバー募集の張り紙が載せられていたので

二人はその企画に参加することにした。


魔物討伐は基本的に6人一組で行う。

5人以下だと役割分担が大変になるし、あまり多すぎるとまとまりの無い集団になってしまう。

過去の冒険者達の試行錯誤の末に確立されたこの方式は

冒険者達にとって今となっては種族・国籍を問わずに一般的になっている。


集合場所であるクフィム島への出口へ二人で向かった。

そこで見たものは…――。


「あ」

「あれ?」

「お」

縁というものは特に願っていない時にこそ発揮されるものである。

神様の悪戯であろうか、そこにいたのは数日前出会ったタルタルの色男。

「もしかして、今回の魔物討伐の主催者であるヤシロっていうのは…」

「ああ、俺の事だ」

「わぁ〜!一緒に頑張りましょうね!」

第一印象があのような感じだった事もあり、ニルギリはこの青年に好感が持てないでいた。


ヤシロという名のタルタルの腰には長身の剣が納められていた。

ただの剣ではない。そのなめらかな曲線を持つ形は、異国の雰囲気を醸し出している。

「その剣、変わっていますね〜」

ラミンがヤシロに問いかけた。

「ああ、これは刀と言う。『兼定』という名が付いていて、物心付く頃からずっとこいつを使っているんだ」

「へぇ〜。剣に名前を付けるなんて変わった戦士さんなんですね〜」

「戦士じゃない、『侍』だ」

「侍…?」

二人の話に、ニルギリが加わった。

「ああ。型にこだわり、戦いの中に美を追求するジョブさ」

「戦いの中に美を…ねぇ」

「特に熟練した侍の刀裁きは心底惚れ惚れするぜ。ま、俺の動きを良く見ておくんだな」

「はぁ…」

その小さな身体でアタッカーが務まるのか。

複雑な心境のまま、メンバーが全員集まり出発することになった。





「マップによると、この狭い通路を進むと開けた場所に出るらしい。そこを拠点としようと思う」

リーダーらしく、ヤシロは案を出した。

メンバーも異論は無いようだ。

「そうと決まったら事は急げだ!皆のもの、俺に続け!」

「あー、でも…」

ニルギリが発言する。

「先輩の冒険者に聞いたんだけど、そこに行くまでにウェポンっていう好戦的なモンスターが居る事があって、

 かなり腕が立つ人でないと太刀打ち出来ないって…」

「ってことは、サイレントオイルとプリズムパウダーが必要になるね〜」

ラミンが助言を与える。

「白魔導師さんが同じ効果のある魔法を打てるよ」

「あ、そっかぁ」

「というわけで、お手数ですが白さん、インビジとスニークを…。………って」

一人、リーダーであるヤシロだけさっさと前へと進んでいた。

「ちょっと、リーダー!話聞いてなかったの?インビジとスニークを…」

メンバーに背を向けたまま、ヤシロが怒鳴った。

「インスニなんかいらねぇ。からまれたら全員俺がぶった斬る!」



数秒の間、その空間に氷河期が訪れた――。