「全く、どうしてすぐにパールで呼んでくれなかったのだ」

「ごめんなさい、気が動転していて、思いつかなくって…」


リンクパールからニルギリの声を聞き、フェニックスはクフィムへ急いで駆けつけた。
ニルギリ以外の二人が倒れているのを見て肝を冷やしたが、
事情を一部始終聞いて呆れた様子だった

フェニックスはヤシロを、ニルギリはラミンを背負ってジュノへ向けて歩いている


「それにしても…このヤシロとやらは、本当に『雪月花』と言ったのか?」

「実際、放った3つの技はどれもその名に因んだ特徴がありました」

「ふむ…それが本当ならば、こいつはとんだ潜在能力の持ち主だな」

「どういう意味ですか?」

「それらは、本来一つ一つが大技なんだ」

「…え?」

「『雪風』『月光』『花車』と言って、いずれも熟練した侍でしか放つ事が出来ない」

「え、えぇ」

「飛びぬけた集中力・精神力を必要とする侍ならではの一人連携技といった所だな」


この小さな身体にどれほど大きな使命感と責任感を背負っているのだろう
フェニックスの背で眠ったままのヤシロをニルギリは見て思った


「しかし、彼の現段階の様子では恐らく意図的に放つ事は不可能だろう」

「奥の手とは言ったものの、見栄を張っていたってわけか…」

「だが才能は本物だ。ニルもうかうかしれられないな」

「う…なにもそこで発破かけなくても…」


親子のようなシルエットを残して、二人はジュノへ向かって行った










それから時は経ち――


「あ、ヤシロさんだ〜」

「ああ、お前達か。久しぶりだな」


場所は同じく、中立都市ジュノ
あれから様々な経験を積んでほんの少しだけ
冒険者としての腕を上げたニルギリとラミンは、
少し難度の高い魔物討伐に参加する事にした


「じゃあ、ヤシロもこの魔物討伐に?」

「ここでの生活にも慣れてきたし少しランクの高いものにも挑戦しようかと思ってな」

「わたしたちと同じ理由なのね〜」

「ところで…この魔物討伐、ダンジョンのかなり奥深くへ向かうらしいけど」

「それがどうした」

「つまり、…事をスムースに進めるためには道中例のアレが必要なわけで」

「……」


急に押し黙るヤシロ


「…こ」

「『断わる』なんて言わないよねぇヤシロ君?」


何故かニルギリはにこにこと笑顔だ


「魔物討伐はチームワークが大切だよ〜」

「しかしインスニなんt」

「必要だよねラミン?時には姿を隠す事も、ね?」

「うんうん!」

「…やっぱりオレ降」

「あれぇ〜?天下の侍様が一度決めた事を途中で投げ出すのかな?」

「…てめぇ、死にてぇのか」

「まぁ今回だけでもいいから姿を隠すってものを経験してみたらどう?」

「ふざけるな!」

「冗談抜きで、色んな経験して初めて見えてくるものはあると思うよ」

「そんな事を言って、オレを口車に乗せようと…」

「ちょっとふたりとも落ち着いて〜」


その後彼が受け入れたかどうかは、知る人ぞ知る…